医療過誤とは、医療従事者の過失により、患者に損害を与えてしまう行為のことを言います。いわゆる医療ミスです。医療過誤を含め医療訴訟は、通常の訴訟と違いその専門性により被害者側にとって非常に不利な争いになってしまうことがあります。そして被害者やその家族のやり場のない怒りは刑事告訴へと向かいます。一方で、医者への積極的な責任追及は、リスク回避を優先した防衛医療を招くといった問題もあります。
医療訴訟について
医療過誤が起きると、医療従事者本人及びその関係者は民事的責任、刑事的責任、行政的責任が問われます。
■民事的責任
被害者側は、損害賠償請求を行うことができます。過失が明らかな場合は、ほぼ示談交渉成立により解決します。訴訟に進んだとしても、勝訴を勝ち取れる可能性は非常に低いです。理由としては、立証するための証拠や証人を見つけることが非常に困難であること、訴訟の論点が医療的な問題になり論争をするためには高度な医学的知識が必要であることが挙げられます。
■刑事的責任
医療行為に悪質性や単純なミスといった明らかな過失が認められる場合、業務上過失致死傷などの刑事責任が問われます。しかし明白な過失であるかの判断は医療水準の問題になってくるため、立件は通常の案件よりも難しくなってきます。また侵襲行為(メスなどを入れて体を傷つけること)の伴う医師の性質上、刑事責任追及は謙抑的であるべきとされます。医師は訴訟に巻き込まれるのを防ぐため、必要以上の検査をしたりリスクの高い治療を避け患者をたらい回しにします。これを防衛医療と呼びます。すると度重なる通院で患者の負担が増えたり本来助かるはずの命が助からなくなってしまうといった事態が起きてしまうのです。
■行政的責任
罰金以上の刑に処される、犯罪や不法行為を行うなどの条件で、医師免許の停止や取り消し、医業停止の処分になることがあります。
医療訴訟の準備
医療過誤の疑いがあり訴訟を起こすとなったとき、通常の訴訟よりも難しいとされる医療訴訟の準備には何をすればよいのでしょうか?
1.証拠を集めるため、診療内容の経過などをメモする。
2.任意でカルテを開示してもらう、またはカルテ改ざんなどの証拠隠滅を防ぐために証拠保全の手続きをする。
3.専門家による医療分析の結果、法的責任が認められた場合損害賠償請求を行う。
4.示談交渉を行い、決裂した場合訴訟に進む。
立証証拠の提示は訴え側の義務であるため、訴訟を起こすにはまず徹底した証拠集めが不可欠となってきます。そのためにも、感情的になってすぐに病院側に賠償請求をしたりせず、落ち着いて手続きを行いましょう。医療過誤があるかどうかの判断は弁護士などの専門家に任せるなど冷静な判断が必要です。
弁護士に依頼するメリット
訴訟準備の際の証拠保全の手続きを代理で行ってくれたり、医療分野に強い弁護士であれば知り合いの医師や看護師に医療分析を依頼することができます。
弁護士に依頼するデメリット
医療裁判は普通の裁判よりも賠償費用が高額になるため、依頼料も高額になる可能性が高いです。医療訴訟を扱える弁護士が少なく、さらに脳や心臓といった各診療分野で適した専門家を探し出すのは至難の技といえます。