加害者が複数人いる場合、被害者は共同訴訟として加害者全員に対して損害賠償請求を起こすことができます。そして損害額の支払いを求める際には、不真正連帯債務として加害者全員に対して全額を請求することができます。
加害者は連帯責任として一つの債務を負うことになるため、被害者は加害者の誰に請求してもよいことになるのです。
ここでは不倫や交通事故における共同不法行為での損害賠償債務について説明します。
共同不法行為は連帯責任
複数の加害者による不法行為を、共同不法行為といいます。共同不法行為に基づく損害賠償請求は、加害者の不真正連帯債務となり、全員で連帯してすべての責任を負う必要があります。
例えば不倫は二人いないとできませんので、共同不法行為の典型例となります。不倫をされた妻Aさんは、不倫をした夫Bさんとその相手Cさんを相手取って損害賠償請求により慰謝料200万円を勝ち取りました。
この時、BさんとCさんは連帯して200万円の支払い義務が発生します。AさんはBさんとCさんにそれぞれ100万円ずつ請求しても、BさんとCさんに同時に200万円ずつ請求しても良いとしています。これが連帯債務の基本原則です。
妻であるAさんは誰に請求してもよいため、Bさんと離婚しない場合には不倫相手のCさんにだけ徹底的に請求することも可能です。
さらに不真正連帯債務の場合は、加害者同士が他人である場合を想定して、弁済と相殺以外の事由はお互いに一切の影響を及ぼしません。
仮にBさんが150万円弁済したとしたら、Cさんにも影響を与え残りの慰謝料は二人で50万に減ります。
しかし弁済でなく、AさんとBさんが和解し、Bさんだけ支払いを免除するとした場合でも、Cさんには影響を及ぼさず、引き続き200万円の弁済義務があります。とにかくAさんが全額受け取れれば良いのです。ただし200万円を超える額を請求することはできません。
被害者に過失割合がある場合
交通事故のように被害者にも過失割合が存在する場合、まず当事者全員の絶対的過失割合が算出されます。
例えば被害者1人と加害者2人の事故の場合、絶対的過失割合は、被害者:加害者A:加害者Bの全員の割合で算出されます。
仮に10:30:60だとします。被害者の損害額が1,000万円だとすると、被害者が請求できるのは900万円となりますが、加害者Aと加害者Bからは必ずしも30:60の割合通りに支払われる必要はありません。もし加害者Bに支払い能力がなければ加害者Aに900万全額請求してもなんら問題ないのです。ただし受け取れる合計額は900万円までとなります。
加害者同士での請求も可能
ただし、自分の負担すべき額を超えて支払っている加害者は、別の加害者へ超過分の請求が可能です。これを求償権といいます。先程の交通事故の例だと、過失割合が加害者A:B=30:60のところを、加害者Aが全額900万円支払った場合、AはBに対して600万円分請求できるということになります。
不倫における慰謝料相殺
不倫した配偶者に、不倫相手との不真正連帯債務として慰謝料請求していたとしても、後に離婚となった場合には、財産分与によって慰謝料が相殺される可能性があります。
例えば妻Aさんは、不倫した夫Bさんと不倫相手Cさんに対して200万円の慰謝料を請求していたとします。その後AさんとBさんの離婚が決まり、共有財産400万円の半額200万円ずつが配分されることになりました。この200万円はBさんの反対債権となるので、200万円の慰謝料は相殺されてしまいます。Bさんの支払分が相殺されると、Cさんの債務もなくなりますので、Aさんが慰謝料としてもらえる金額は実質0円となってしまうのです。
求償権の放棄
また、不倫での求償権はしばしばトラブルとなります。最初の例で妻Aさんが不倫相手のCさんに対して200万円全額請求したとします。その際CさんはBさんに対して100万円求償することができるのです。いくらAさんがBさんの支払いを免除したとしても、結局Bさんは100万円負担しなければならないのです。この100万円をめぐってまた争いが起きれば、問題はますます泥沼化してしまいます。
このように求償権によって争いが長引くのを防ぐためには、BさんとCさんの負担割合を明らかにした上で、Cさんの求償権の放棄を前提として話を進めることが有効な方法となります。代わりに慰謝料を減額することで、お互いに折り合いをつけることができます。
その際には口約束ではなく、書面に残して証拠を残しておくことが大切です。書類作成については弁護士などのプロに任せることで、より確実性のある文書にすることができます。また話し合いの代理人として交渉を有利に進めてもらえるため、弁護士に一括して依頼することも一度は検討すべき選択肢だといえます。