むやみに訴えてもだめ?不当な訴訟、濫訴とは | 弁護士の選び方 | 弁護士がおすすめする東京・千葉・埼玉・神奈川の法律事務所
2018年1月31日

民事でトラブルが起きたときには、訴訟を起こすことで裁判所に法的解決を求めることができます。訴訟は憲法で認められた権利であり、訴訟能力があれば誰でも起こすことができます。
しかし、ときにこの権利を悪用して、もっぱら相手に損害を与えることを目的とした、嫌がらせのような訴訟が行われることがあります。このような不当な訴訟を、不当提訴や濫訴といいます。
あなたもある日突然、理不尽な理由で訴えられるかもしれません。今回は、他人事ではない?不当な訴訟である濫訴について紹介します。

濫訴とは

濫訴とは、むやみに訴訟を起こすことを指します。主に相手への不当な負担を目的とした訴訟であり、不法行為でもあります。通常、訴えを起こされた側が、不当な提訴として反訴(同一手続内で逆に訴え返すこと)することで、不法行為であるかどうかが審理されます。

裁判を受ける権利と濫訴

誰でも自分の権利や自由が侵害された際には、訴訟を起こして裁判所に公平な判断を求めることができます。これが憲法で保障されている権利の一つである、「裁判を受ける権利(憲法32条)」です。権利として認められている以上、訴訟は正当な行為であり、不法行為として制限するには慎重な判断が必要となります。
しかし一方で、訴訟を起こされた側は、裁判による時間的な拘束や、弁護士費用などの経済的負担、そして訴えを起こされたという精神的な苦痛を強いられることになります。
訴訟を利用して、相手側に不当な負担を与えることは権利の濫用であり、違法行為そのものであるといえます。
過去の判例によると、不当な訴訟といえるのは、下記要件を満たす場合に限られます。

不当提訴の要件
・提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである
・提訴者が上記のことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起した
・訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる

つまり訴訟を起こす人が、自分の主張がでたらめで、勝ち目のないことを知っていながら、または十分に知りうる立場にありながら、あえて起こした訴訟は、不当なものであり違法行為であると認められるとしています。
しかし不当提訴であると主張する側が上記要件の成立を証明しなければならないため、ハードルは高く、実際に不法行為として認められることは少ないようです。具体的な事例については、次項で紹介いたします。

濫訴の具体的な事例

では具体的にどのようなときに不当な訴訟提起であると判断されるのでしょうか。下記に例を挙げています。

株主代表訴訟

不当訴訟の最も典型的な例が、株主が会社取締役に対して起こす、株主代表訴訟です。取締役の著しいミスや違法行為により、会社に損害を与えたのにも関わらず、会社が責任追及を行わなかった場合、6ヶ月前から継続して株式を所有している株主(株式未公開であれば制限なし)は、会社の代表として取締役に対し損害賠償請求を行うことができます。
取締役が敗訴した場合には、会社と株主に賠償金を支払うことになりますが、株主へは訴訟費用の一部しか支払われません。株主代表訴訟は、あくまで会社の回復を図ることが目的であり、株主個人が直接的に利益を受けるわけではないのです。

それにも関わらず、もっぱら嫌がらせ目的や株主個人や第三者の利益追求、会社への損失を与えることを目的に訴訟を提起した場合には、不当な訴訟として請求が却下されます。また訴権を濫用した不法行為として、逆に会社や取締役から損害賠償の請求を求められることもあります。
株主代表訴訟の濫用を防止する制度として、担保金の提供があります。株主代表訴訟を起こされた際に、訴えられた取締役が、株主に悪意があることを裁判官に認めさせることができた場合、裁判所は訴えた株主に対して担保金(数百万)を求めることができます。期間内に支払われなかった場合には、訴えが却下されることもあります。

同じ内容の訴訟を何度も起こす

以前に敗訴の確定判決を受けているのにも関わらず、ほぼ同じ内容で訴訟提起を繰り返すようなケースでも、訴権の濫用として訴えを却下されるだけでなく、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く不法行為として損害賠償の請求を命じられることがあります。
A家とB家の間で起こった日照権に関する争いで、弁護士であるBは、A家に対して計3回の提訴を行いました。これに対しAは、弁護士の知識を利用した嫌がらせ目的の不当な訴訟であるとして、Bに対して損害賠償請求を行いました。
判決では、すでに訴えが容認されないことを明白に知っていながら、あえて裁判所の結論を無視し、訴訟を蒸し返すことは公序良俗に反する違法行為であるとして、Bに損害賠償を命じました。

スラップ訴訟

スラップ訴訟とは、大手企業や政治団体など、社会的・経済的に強い立場の者が、ジャーナリスト個人や一般市民など立場の弱い者に対して、泣き寝入り目的や萎縮させる目的で行う訴訟のことをいいます。欧米で発達している概念であり、下記のように定義されています。

スラップ訴訟の要件
・提訴や告発など、政府・自治体などが権力を発動するよう働きかけること
・働きかけが民事訴訟の形を取ること
・巨大企業・政府・地方公共団体が原告になり、個人や民間団体を被告として提訴されること
・公共の利益や社会的意義にかかわる重要な問題を争点としていること

日本でのスラップ訴訟の例として、大規模太陽光発電所の建設計画を巡っての、企業(強者)と個人(弱者)のトラブルが挙げられます。反対運動により計画縮小を余儀なくされたとして、設置会社が地域住民の男性に対し、6,000万円の損害賠償を請求しました。これに対し、被告側の男性は反対派を押さえ込むための不当提訴であるとして、慰謝料200万円を請求する反訴を起こしました。
判決は、設置会社である原告側の請求を棄却し、提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとして男性の反訴を認め、設置会社に対し慰謝料50万円の支払いを命じました。

濫訴によりかかる弁護士費用

濫訴が不法行為として認められた場合には、損害賠償の請求が可能です。また弁護士費用についても、敗訴側に請求することができます。
通常、手数料などの訴訟費用は敗訴側に負担が命じられますが、その内訳に勝訴側の弁護士費用は含まれません。勝訴したとしても自分で負担する必要があります。
しかし例外的に、不法行為に基づく損害賠償請求事件の場合には、敗訴側に弁護士費用含めた賠償を請求することができます。不当訴訟についても不法行為にあたりますので、弁護士費用の請求が可能となるのです。