残業代の未払請求をする前に!知っておくべき「時間外労働」の定義 | 弁護士の選び方 | 弁護士がおすすめする東京・千葉・埼玉・神奈川の法律事務所
2017年8月29日

企業のコンプライアンス意識の高まりとともに、未払いの残業代の支払いを求める労務トラブルが増えています。使用者が従業員に一切の賃金を支払わずに残業させる、いわゆるサービス残業はれっきとした違法行為であり、労働者は使用者に対して正当な対価を請求する権利があります。
しかし一個人が企業に権利を主張するためには、それなりの準備が必要です。あれこれと理由を付けて支払い義務を逃れられないために、残業代を始めとした「割増賃金」について理解しておきましょう。

時間外労働(残業)の定義

残業とは、予め定められた労働時間よりも多く働くことであり、法内残業と法定外残業の二つに大別されます。二つの大きな違いは割増賃金の発生の有無です。

法定内残業

就業時間は、1日8時間、週40時間を超えてはならないと労働基準法で定められています。これを法定労働時間といい、企業はこの時間に収まる範囲で労働時間を決めなければなりません。法定労働時間を超えて働いた場合には、所定賃金よりも割増の賃金、つまり残業代を支払わなければならないとも定められています。
法定内残業とは、法定労働時間内で行う残業のことであり、割増賃金が義務付けられていません。通常所定賃金と同様の金額で換算されます。
例えば労働時間が6時間と定められた職場で7時間働いた場合、1時間の残業が発生していることになりますが、1日8時間の法定労働時間内となるため、法定内残業として割増ではなく、所定賃金と同様の金額で換算されるのです。

法定外残業

一方で、法定労働時間を超えて残業した場合には、法定外残業として割増賃金が発生します。原則法定外残業は禁止されていますが、36協定という使用者と労働者の間で結ばれる協定の届け出があれば認められます。
例えば所定労働時間が8時間の職場で9時間働いた場合、法定労働時間を1時間超えているため、超過分を法定外残業として割増での賃金を支払う必要があります。
割増賃金の割合については次の項で詳しく説明します。

36協定とは
36協定とは、法定労働時間を超えて労働させる場合に必要な協定であり、事業所の労働者の過半数以上が加入する労働組合又は労働者の代表と使用者の間で結ばれます。
具体的な残業理由や業務内容、延長時間や休日について書面で定め、所轄の労働基準監督署に届け出ることで法定外残業が認められます。無限に残業が可能になるわけではなく、週15時間、月45時間、年360時間など、限度基準が設けられています。
36協定なく法定外残業をさせたり、限度基準を超えて働かせたりすると、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。

割増賃金となる条件

労働基準法では、割増した賃金の支払い義務について次のような条件で定めています。法定外残業に対する残業手当、深夜労働の深夜手当、休日労働の休日手当があります。

残業手当

労働時間が1日8時間、又は週40時間を超えた場合、超過した時間分は所定賃金×125%以上の割増賃金が支払われることになります。
例えば、10時間勤務×週3日で週の合計が40時間に満たなくても、8時間を超えた2時間×3日の6時間分は割増賃金として扱われます。また1日8時間に満たなくても、7時間×6日など週の合計が40時間を超えれば、2時間分は割増賃金となります。
さらに、月の法定外残業時間が60時間を超えた場合には、所定賃金×150%以上の割増賃金となります。ただし中小企業には適用されず、60時間を超えた場合でも変わらず所定賃金×125%となります。

法定外残業
月60時間未満
法定外残業
月60時間以上※
残業手当の割増率 25%以上 50%以上
※中小企業除く

深夜手当

深夜22時~朝5時の間の労働については、所定賃金×125%以上の割増賃金となります。法定労働時間内であっても関係なく割増されなければならず、法定外残業時間にも該当する場合には、所定賃金×150%以上で算定されることになります。

法定労働時間内 法定労働時間外
深夜手当の割増率 25%以上 50%以上

休日手当

労働基準法では、週に1回以上又は4週に4回以上の休日を与えることを定めています。法の基準で設けられた休日を法定休日といい、それとは別に企業が任意で定めた休日を法定外休日といいます。
例えば、1日8時間勤務の企業は、法定休日として最低でも週に1回以上の休みを定めなければなりませんが、週40時間の労働時間を超えないためには、別にもう1日休みを設けなくてはなりません。このように企業が独自に定めた休みを法定外休日といいます。
法定休日と法定外休日では、休日労働の割増率が変わってきます。法定休日の場合は所定賃金×135%の割増、さらに法定外残業だと所定賃金×160%となります。
法定外休日は法定外残業に該当する時間帯のみ、所定賃金×125%の割増がされます。法定労働時間内であれば、割増はありません。

法定労働時間内 法定労働時間外
法定休日の割増率 35%以上 60%以上
法定外休日の割増率 なし 25%以上

残業代が請求できない例外

残業手当の支払いは使用者の義務ですが、残業の仕方や企業が取り入れている労働制度によっては、残業代が請求できないケースもあります。よくあるパターンとして次の5つを紹介します。

「労働時間」としてカウントされない残業

労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であると過去の判例内で言及されています。客観的に見た時に、労働者が会社によって強制的に働かされているか否かで、労働時間として扱われるのかを判断する必要があるのです。会社にいる時間=労働時間ではないのです。
例えば、会社の指示で朝の就業開始よりも1時間早く来ている場合には、労働時間にカウントされます。また具体的な指示はないが早出しないと査定に響くといった場合にも、強制されていることになるため労働時間として扱われるべきです。
一方で会社の指示もなく、交通事情など個人的な理由で早く出社しているような場合には、労働時間としてカウントされません。

週・月・年単位の変形労働制

変形労働制とは、労働時間を日単位ではなく、週や月や年単位でカウントする労働形態です。仮に日の労働時間が法定労働時間を超えても、トータルの労働時間が平均して週40時間以内であれば残業手当を支払わなくても良いという制度です。週単位の変形労働制、月単位の変形労働制、年単位の変形労働制の3つがあります。
例えば、ある1日の労働時間が10時間の場合、通常2時間分は割増賃金が支払われます。しかし月単位の変形労働制の場合、月の合計労働時間の週平均が40時間以内であれば、割増はされません。変形労働制は、繁忙期と閑散期の差が激しい業種に適している制度であるといえます。
ただし深夜手当や休日手当は、変形労働制に関係なく支給対象となります。

みなし労働時間制

みなし労働時間制とは、労働時間の把握が難しい一定の業態において、労働時間のカウントをせずに所定の労働時間働いたとみなす制度です。
労働時間の把握が難しい場合に取られる制度であり、残業手当も基本的に予め決められた額しか支払われません。
例えば所定労働時間を7時間と設定した場合、実際の労働時間が5時間でも8時間でも、7時間働いたとみなされます。また残業時間も見越して、予め法定労働時間を超えた時間を所定労働時間として設定することもあり、その場合には割増した分の賃金が支払われます。
ただしみなし労働時間制を導入できるのは、一部の業態や業種に限られます。具体的には、営業の外回りなど事業場外での業務が多い業態に適用される事業場外みなし労働時間制、労働時間を個人の裁量に委ねる必要がある業種に適用される専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制の3つのケースに限られます。
なお、深夜手当や休日手当は、みなし労働時間制に関係なく別途支給対象となります。

固定残業(みなし残業)時間の範囲内である

企業が予め固定残業時間と残業代を定めている場合には、固定残業時間を超えない限りは、新たに割増賃金が発生することはありません。
例えば基本給20万円、月40時間の固定残業代5万円と定められていた場合、月40時間以内の法定外残業は、全て5万円に含まれていることになります。仮に20時間しか残業していなくても5万円は固定で支払われます。
ただし固定残業時間の40時間を超えた場合には、超えた分だけ別途残業手当が支払われなくてはなりません。また深夜手当や休日手当は別途算定される必要があります。

管理監督者である

企業の中で管理監督者の位置付けにある社員は、例外的に残業手当と休日手当が保証されません。労働基準法では、「監督若しくは管理の地位にある者」つまり管理監督者は、労働時間や休暇、休日に関する規定が適用されないと定めています。
過去の判例から、管理監督者と認められるのは、会社の運営に関わっている、自らの勤務時間についての裁量がある、賃金などの待遇が一般の従業員と区別化がされている、といった要件を満たしている社員であり、いわゆる名ばかり管理職の場合には該当しません。
なお深夜手当については管理監督者であっても支給対象となります。

しっかりとした事前準備を

世の中には様々な業種があり働き方も様々です。企業ごとに効率的な賃金体系が存在するのは当然であり、経営を続けていくためには仕方のないことだといえます。正しく運用をしていれば問題ありませんが、ひとたびモラルのない経営者によって誤った解釈がされると、立場の弱い従業員の労働環境は簡単に脅かされてしまいます。 もしもあなたが残業代の請求を考えているのであれば、まずは就業規則を熟読するなどして、自社の賃金体系を知りましょう。企業を相手取るには、しっかりとした事前準備が必要です。未払い残業代の請求の流れについてはこちらで紹介しています。→「未払い残業代請求の流れとは?必要書類について解説」
あなたが請求しようとしている残業代は、正当に主張できるものでしたか?記事を読んで、残業代についての理解を深めていただけたなら幸いです。